大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1168号 判決 1949年12月13日

主文

原判決を破毀する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人久保寺誠夫の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りである。

原判決が挙示の証拠によって判示第一の(イ)及び(ロ)の詐欺の事実を認定していることは所論の通りである。

而して右挙示の証拠によって原判決が確定した事実は要するに、被告人において受配者が大津市に実在していないに拘らず恰も現住しているように裝い不在受配者等の記入された家庭用主要食糧購入通帳を使用して判配給所において係員に対し主食の配給を請求して係員を欺罔し因って主食受配名義の下に判示米麦等の主食を騙取したというのである。

而して原判決が証拠に引用している被告人の原審公判廷における供述の要旨は原判示において大津市に現住していなかったものと認定している合計九名の中一名は被告人が柳大池名義と星山太郎名義でいわゆる二重配給を受けたもの他の二名は被告人が判示配給を受けた当時既に無断で被告人の許を去り所在不明になっていた人夫であり残りの六名は昭和二三年六月の福井震災の際之が復旧工事の為被告人の指示に從い同地に行っていた人夫だというにある。

右の事実において被告人がいわゆる二重配給を受けた分と受配当時既に行方不明になって大津市に実在していなかった人夫二名の分について被告人が恰も大津市に現住しているように裝い主食の配給を受けた点が詐欺となることは異論のないところであって、被告人も亦之を争わないのである。

然し受配当時偶々前記のように福井の震災復旧工事の為同地にあった人夫六名の分についても前同様詐欺になるというべきであろうか凡そ日本国内に居住する者は特殊の者を除き何人も正規に発行された主食購入通帳により一定量の主食を一定の配給所から購入する権利を有するものであって偶々受配者が他の地域へ転住することがあったとしてもかゝる転住者は直ちに転出、転入の手続を採り転住地の配給所においてのみ主食を購入しなければならないというような法規上の根拠がないのであるから受配者が購入した主食の輸送その他の不便を忍ぶ以上--尤もそれが食糧管理法違反の罪を構成するか否やは別問題であるが--かゝる手続を採らない間は転住前の地域の配給所から從前通り元の購入通帳により主食の配給を受けることは一向差支のないとこである。

其他一時旅行して居る者の分を其者に代って世帶主が受取る様なことも(旅行者が旅行先で何等かの方法で配給を受けて居る場合の外は)少しも差支えないわけである。斯様に現在して居ない場所で配給を受けても差支ない場合も多々ありこれ等の場合には配給所でも転住の事実又は旅行の事実を知っても配給するであろうから、受配者が転住又は旅行の事実を秘して受配したとしても其行為と配給所の為した配給行為との間に因果の関係もないわけである。故に原審が判示した様に只現在して居ない者を現在して居る様に裝って配給を受けたというだけでは罪を構成しない場合がある。行衞不明になってしまった者の分とか、他所で配給を受けて居る者の分とか其他受けてはならない配給を受けた場合でなければ罪とならない。原審も或は被告人が受けてはならない配給を受けたという趣旨であったかも知れない。しかし原判文では其趣旨はあらわれて居ないし原審挙示の証拠と対照して見ても其趣旨は明とならない。却って証拠によると前記の様に原判示九人の中六人は一時的に被告人の許を去って震災復興工事に行って居たものの様で再び帰って來たのかも知れず、行った先で配給を受けて居た事実も少しも認められない。要するに原判文及び原審挙示の証拠を対照して見ても被告人の行為が(前記六人分については)罪となるべき事実であるかどうかわからないのであって此点において原判決は審理不盡若しくは理由不備の違法あるものというの外ない、そして右の違法は判決に影響を及ぼす可能性あること勿論であるから原判決は此点において破毀を免れない。

よって上告を理由ありとし旧刑事訴訟法第四四八條の二に從って主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例